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メディアウォッチング 「放射線量・被曝限度基準からマスメディアを考える」:南亭駄樂

 福島第一原発事故が起きてから、ベクレルだのシーベルトだのという放射能・放射線量の単位が身近になった。わかったつもりで100ミリシーベルトだの1ミリシー-ベルトだのと被曝限度線量の議論もするようになったが、本当に私たちは理解しているのだろうか。実は、毎日紙面に書いているマスメディアもよくわかっていないのではないか、という気もする。わかりにくさにはICRPとECRRの被曝限度基準に対する考えの違いも絡んでいる。そこで、改めて放射能・放射線量の単位と基準について調べ、考えてみた。

放射能・放射線量についての基礎知識

 まず、基本的な単位についてまとめてみよう。
・Bq(ベクレル)は、放射能(放射線を出す能力)の大きさを表す単位。1Bqは、1個の放射性物質(核種)が1秒間に1回崩壊して放射線を出す能力となる。
・Gy(グレイ)は、物質が吸収する放射線量(吸収線量)の大きさを表す単位。たとえば体は浴びた放射線の量によってダメージを受けるのではなく、体が吸収したエネルギーの大きさによってダメージを受ける。すなわち、通り抜けた放射線の影響は受けない。1Gyは、1kgあたり1J(ジュール)のエネルギーを吸収した放射線量にあたる。
・Sv(シーベルト)は、人体が放射線から受ける影響の度合いを表す単位。外部被曝の場合、β(ベータ)線やγ(ガンマ)線では1Gyの吸収線量で1Svの被曝を受け、α(アルファ)線では1Gyの吸収線量で20Svの被曝を受けるとされている。
 すなわち、人間の体で言うと、放射性物質が放射線を出す能力がBqで、その放射線のエネルギーのうち体で受け止めたエネルギーがGyで、それによって体が受けるダメージがSvで表されるわけだ。

同じ単位で、それぞれ2種類の“等価線量”と“実効線量”

 同じ強さの吸収線量でも、放射線の種類だけでなく、生物種によっても臓器によっても年齢によっても受ける影響の大きさは異なる。それがまた問題を複雑にしている。しかも、研究者や団体によって見解が異なるからますますわからなくなってしまう。
 その例として、世界で広く使われている国際放射線防護委員会(ICRP)の基準と、ICRPを批判し、内部被曝を重視する欧州放射線リスク委員会(ECRR)の基準についてみてみよう。
 実は前述した被曝放射線量(Sv)は、ICRPが採用している計算方法で、この数値は「等価線量」と呼ばれる。シーベルト(Sv)という単位で表される放射線量は何種類もあって、ICRPは生物種や臓器別に重みを付けた値を「実効線量」と呼んでおり、この単位も同じSvである。
 一方、ECRRは、吸収線量(Gy)に独自の見解により被曝の状況や放射性物質の生化学的性質などを考慮した重みをかけた値を「生物学的等価線量」として使っており、さらにこれに生物種別や臓器別の重みをかけたものを「生物学的実効線量」として、いずれも同じSvという単位で表している。後者の掛け率はICRPと同じだが、等価線量ではなく、生物学的等価線量を使うので、ICRPとECRRの値はかなり異なってくる。
 両団体でもっとも見解が分かれるのが内部被曝の評価である。ICRPでは、放射性物質1Bqを経口(食事)や吸入(呼吸)によって取り入れたときに人体が被曝する実効線量(Sv)を「実効線量換算係数(Sv/Bq)」として表すが、ヨウ素(I)131の場合、生後3ヶ月や1歳で経口0.00018Sv/Bq、急速吸入0.000072 Sv/Bqとしている。一方、ECRRでは「生物学的実効線量係数」となるが、経口・吸入とも0-1歳で0.00055 Sv/Bqとしている。
成人で比較すると、ICRPでは経口0.000022Sv/Bq、急速吸入0.0000074 Sv/Bq、ECRRでは経口・吸入とも0.00011 Sv/Bqなので、食事で同じ量(Bq)の放射性物質を取り入れた場合、単純比較でECRRはICRPの5倍、呼吸で取り入れた場合は同約15倍の内部被曝をするという計算になる。
同じ放射線量で同じ単位を使っていても、意味が異なる数値が何種類もあるということになるので注意が必要だ。

ICRPとECRRの被曝限度線量の考え方

では、よく使われる被曝限度線量や避難する際の被曝線量基準はどのような数値でどのように決められているのだろうか。なお、原則として被曝線量は外部被曝と内部被曝の総量になる。
よく出てくるのがICRP基準で、一般人は平常時で年間1mSv(ミリシーベルト)、緊急時で年間20~100mSvを被曝限度としている。また、作業員は平常時で5年間の平均として1年あたり20 mSvを限度としている。これらの数値は、ICRPの計算式による「等価線量」である。
これに対し、ECRRは被曝量の限度を「生物学的実効線量」で、一般人は1年あたり0.1mSvを、作業員は同2mSvを超えない、としている。
ICRPは、被曝限度の考え方を「被曝に関係しうる人間活動を過度に制限することなく被曝の害から人々とその環境を守る」としている。「限度以下なら安全」という立場ではなく、「この程度で我慢しよう」という立場を取っているのだろう。
 これに対し、ECRRは「内部被曝を軽視している」としてICRPを批判しており、スエーデンにおけるチェルノブイリ原発事故によるがん発症率の疫学調査でもECRRの正しさが証明されたと主張している。同じ非政府組織ながら、市民組織であるECRRと国連の科学委員会や国際原子力機関と連携しているICRPの立場の違いが現れているのかもしれない。

マスメディアに何が求められているのか

 こういう話をなぜ「メディアウォッチング」で取り上げるのか、いぶかしがる読者がいるかもしれない。
一つは、新聞社やテレビ局の記者が以上のようなことを知っていて記事を書いているかどうか、はなはだ怪しいと思っているからである。国や国際機関はICRPの基準にのみよっている。一方、子どもの健康を心配している親や市民団体はECRRの見解に親近感を抱いている。しかし、マスメディアは原発事故報道と同じように、当局の発表を無批判に垂れ流しているのではないか、と危惧するからである。
 そして、直接的には次のような田崎晴明・学習院大学理学部教授と朝日新聞科学医療グループ次長とのやりとりを知ったからでもある。
 (詳しくは「放射線と原子力発電所事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説」http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/details/cancerRiskSupp.html参照)
 簡単にまとめると、ICRPは、被曝によるガンのリスクについて「100 mSv の緩慢な被ばくで、生涯のガンによる死亡のリスクが 0.5 パーセント上乗せされる」としているのに、朝日新聞は何度も「100 mSv の緩慢な被ばくで、ガンの発生率が 0.5 パーセント上乗せされる」という内容の記事を書いた。それに対して、田崎氏は「死亡」と「発生」の間違いを指摘し、重要な内容なので訂正するように求め、何回かメールのやりとりをしたが、訂正しなかった、という話である。
 同様のミスは、原子力が専門の東大教授や文部科学省なども犯しているということで、新聞社の科学担当者も同じであれば、当局発表のチェックはできない。


 いま、国は年間放射線量が50mSv以上の地域を「帰還困難区域」、20~50mSvのところを「居住制限区域(一時帰宅可能)」とし、20mSv未満の地域は制限を外そうとしているが、チェルノブイリ原発事故では5mSv以上は移住の義務ゾーンとなっている。双葉町はチェルノブイリ並みの制限をすべきだとし、譲っても1mSvが居住の限度だと考えているとのことだ。
原発事故によって国や専門家など既成の権威が失墜し、ICRPやIAEAなど国際的な権威にも疑問が持たれている。そんなときに、マスメディアがちゃんと理解もしないで無批判に情報の受け売りをしていては民衆から見放されてしまわないか、と危惧するのである。

(参考)「放射能の話~生きのびるための基礎知識」http://guskant.github.com/bgs/
「ECRR(欧州放射線リスク委員会)2010年勧告」http://www.jca.apc.org/mihama/ecrr/ecrr2010_dl.htm
[ 2012/06/13 03:02 ] 南亭駄樂 | TB(-) | CM(-)


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