日曜日恒例の新聞読書蘭簡単レビュー。今回は戦争と人間をテーマにした文学作品だ。
ワシーリ・グロッスマンの小説『人生と運命』が翻訳された。1巻は4515円、2,3巻は各4725円、みすず書房刊行だ。20世紀最高峰に位置する作品といわれる。第2次世界大戦の趨勢を決したスタリングラードの攻防を背景とした戦争と人間を描く。著者は従軍記者としてスタリングラードを訪れ、またユダヤ人絶滅収容所を報道した。「戦争と人間」というテーマでは、日本の作家も挑み傑作を生みだした。それは戦争体験を深めることであったし、彼らが存命中はいまのような戦争に結びつく扇動が世にはびこまなかった。文学にしても映画にしても文化の営みが戦争の惨禍をベースにして展開されたからだ。祖国ソ連での本書の刊行は許されなかった。ナチズムとスターリズムは互いの鏡像とみることに、ソ連政府は許さなかったからだ。出版は20年後。スイスだった。それがいま日本で翻訳された。文学の力というべきか。いや、いまの時代が戦争を見つめることを求めているのだろう。訳者は斎藤紘一。朝日新聞の読書欄掲載。
[ 2012/05/20 23:39 ]
川瀬俊治 |
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