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在日の歌「知らざる故国 何ぞ恋しき」を読む:片山通夫

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 著者は書名の通り在日韓国人である。もっとも2003年12月には「帰化」し日本国籍を取得した。だから日本国籍を持つ松田圭悟(まつだ・けいご)氏である。筆名は奎通(チョ・ギュトン)(以下著者)とある。



matsuda.jpg写真:大阪鶴橋市場に立つ著者・撮影片山通夫

 本書に記されているのは3歳で家族とともに海峡を渡って下関に着いた著者の歴史であり、今なお国際政治に翻弄され続けている在日韓国人の歴史そのものだと言える。
 在日韓国・朝鮮人の多く住む大阪・鶴橋の喫茶店で本書の著者と会った。穏やかな人柄がその表情に表れている。この人物が本書に記されているような「過激な」歌を読まれるのかと、筆者(片山)はインタビューの間、疑問に思った。人は見掛けによらないのか、それとも在日韓国人という彼個人の歴史のなせる技なのか、筆者にはわからなかった。

 「過激な」という表現をしてしまったが、いくつか本書に記されている歌を紹介したい。

啄木の墨塗る祖国の地図に見るマグマを胸の臥薪嘗胆(2004年)
少し解説したほうがいいかもしれない。啄木とはかの石川啄木のことである。啄木は1910年にこのような歌を詠んだ。
  地図の上朝鮮国に黒々と墨をぬりつつ秋風を聞く
 1910年と言えば、韓国併合が起った年である。啄木は(おそらく)併合された朝鮮民族の怒りや悲しみを「秋風を聞く」と日本人としてやるせない思いを表現したのだと思う。そこには一個人の意気地の無さを諦めとともに自嘲しているようにも見える。そして韓国併合を抗議したたった一人の日本人だった。
著者は同じ韓国併合を、時代こそ違え「マグマを胸の臥薪嘗胆」と血を吐く様な思いを「マグマ」という煮えたぎるエネルギーを表す言葉でその無念さを綴る。
筆者(片山)はそこに「民族の血」を見る思いをした。

 今一首紹介したい。

伽耶琴の太き調べの「アリラン」の流れる茶房に肩揺らせおり(2008年)

伽耶琴はカヤグムと読み、日本の箏(琴のこと)に形が似た韓国の伝統楽器である。アリランは朝鮮民謡で朝鮮半島で広く歌われている朝鮮民族の心の歌でもある。筆者は伽耶琴で奏でられたアリランを聞いたことがない。だからこの歌のほんとうの意味は分からないのだが、アリランには思い出がある。2002年、ワールドカップが日韓共催で開催された。大阪のコリアタウンでも、応援の輪が広がった。韓国はこの大会で4位に輝く。その応援の場に筆者は居た。公園にプロジェクターを置いて大きなスクリーンに試合の模様を映しての応援だ。試合が終わると誰がリードするでもなく、500人くらいは居た(おそらくほとんどが在日韓国人だろう)人々が、自然発生的に「アリラン」を歌いだした。この歌はソウルの競技場に、そして世界に届いたことだと思う。
 傍らにいたもう老人と言っていい年配の男性が筆者の方を叩き「私たちはうれしいにつけ、悲しいにつけ、アリランを歌うのです」と話していた。この時、筆者がうけた印象が「肩揺らせおり」という表現に重なる。
アリランは朝鮮民族の心の歌なのだ。その感を再び思わせる味わい深い一首である。

 著者はこう話す。
「この本は歌とエッセイでつづった在日の民衆史」だと。そして「在日の若い人たちにはもちろん、日本人にも韓日二つの国の歴史、今なお南北に分断されたままの祖国の歴史を知ってほしい」と。
 
 「書評」とも言えない書評になってしまったが、最後にもう一首紹介して終わりたい。

 語りかく言葉見出せずベルリンの壁に向かいて故国を思う(1999年)

1989年11月にベルリンの壁が崩壊した。著者はその崩壊を目の当たりにして、今なお分断されたままの祖国に思いを馳せる。
「38度線の鉄条網は、今なお解かれる気配さえもない」
著者の言葉である。

【書籍データ】

タイトル 在日の歌 知らざる故国 何ぞ恋しき
著者 奎通(チョ・ギュトン)
発行 中井書店
ISBN978-4-931553-6
定価 (本体価格 1600円+税)

ご購入は高坂書店まで。 
〒543-0025 大阪府大阪市天王寺区下味原町2-2
電話 06-6771-2560
[ 2012/03/18 15:56 ] 片山通夫 | TB(-) | CM(-)


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