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夜間中学その日その日 (298)   守口夜間中学 白井善吾

麦の穂が出るころ(その4)
「先生もってきました」廊下を歩いている私を見つけて大事そうに持ってきた包み紙を開けた。中から出てきたのは根っこごと引き抜いてきた小麦だ。まだ青い。ところどころ白い花粉の入った葯が残っている。しかし小麦の穂先の芒(のぎ)は黄金色を帯びてきている。

丹精込めて育てたことがわかる大きな穂だ。「もうちょっと待ってくれたらよかったのに、青いがな」というと、「それまで見向きもしなかったスズメがやってきて、穂先に止まるようになってきた。追っても、追ってもやってくる。根競べに負けて、学校に持ってきた」とのこと。教室に入って、さっそく花瓶に活けていた。その周りを取り囲んだ夜間中学生、「子どものころ、この麦わらでよく遊びました。ホタル籠や桑の実を入れる籠を編みました。それをもってホタル取りに行きました」「懐かしい。麦や小麦を植えている田や畑、もう長いこと見ていません」「口いっぱいほおばって、桑の実をたべました」
 この出来事に促され、麦の穂から理科の学習を展開した。
なにも言わず、十分熟した麦を1本ずつ配った。「先生は私の体と正反対の青い、小さな麦をくばってくれました」「ごめん、本数が足りなくなって、次は大きなのを用意しておきます」
 「この一ヶ月で大きく立派にそだちましたなぁ」。バリバリに硬く伸びた穂を見て「ひげがかたくなって、中の麦粒を守っています」「手で握っても、チクチク引っかかります」「これじゃスズメも痛くて食べないでしょう」こんな会話には加わらず、Yさんは、穂をばらして、麦粒を口に入れ噛みながら、「うまい、これはいけます」。つられてほかの夜間中学生も口に入れた。「大きな粒ですね」「これをかんでいたらチューインガムができる。子どものころよく遊びました」
 大麦と小麦の穂を見比べた後、一粒の麦を皮付きのままとり、それについている1㎝ぐらいの「ひげ」の名前をたずねた。誰からも答えはなかった。「のぎ」といいます。漢字で「芒」と書きます。私たちが知っている穀物には芒がついています。
10種類ほどの穀物の絵が描いてあるプリントを配った。稲、大麦、小麦、そば、トウモロコシはすぐにわかったが、しばらくしてでてきたのが、粟、燕麦、でてこなかったのは黍、高粱。「ちょっとくさいにおいがする、赤色の粒ですか?」と夜間中学生からたずねられても私は答えられなかった。
 「辞書で『のぎ』と引くと“芒”“禾”と出てきます」と話すと「この漢字、へいわのわの漢字の左側にもあります」。「和子さんの和ですね」と返ってきた。「カタカナのノと漢字で木とかくから、ノギといいます」。「へぇ、ノと木とかくから“のぎ”言うんですか?」「ノギへんの漢字、調べましょう?」
夜間中学生から出てきた漢字は私・税・稲・秋・科・穀・種・秒。
 一粒の麦をきっかけに夜間中学生は想いのいっぱい詰まった話を始めた。
理科の「科」について考えた。左の「へん」は穀物を表すのぎへん。右の「つくり」は穀物の量をはかる「斗(ます)」。「あっ、一斗枡の『斗』や。家にこのます、ありました」「穀物と枡を合わせた漢字や。なるほどこの漢字、うまいこと考えとる」。私は「枡で量って、種類ごとに分ける」と付け加えた。
「子どもの頃、よく米屋に米買いに行きました。一升枡で量るとき、半分ぐらい棒ですりきりにして、残り半分は山盛りのまま袋にいれてくれました。家に帰ってそのことを話すと、母親は喜んでいました。それからずっと私が買う役目になりました。優しい米屋のおじさんでした」。隣の夜間中学生、「小さい子どもが手伝いをしてるから、ほうびをくれたんや」と相槌を打った。
こんな展開で印象づける。強制でない学びだ。「今日は学校へ行って儲かった。『のぎへん』の意味がわかった」こんな言葉を残して、この夜間中学生は教室を後にした。
6月5日は24節季の「芒種」。麦の収穫を終え、田植えの準備だ。夜間中学生には申し訳ないが、雨がほしい季節だ。しかし雨の日の夜間中学生の登下校は大変だ。雨合羽を脱いでいそいそと教室に入っていく。申し訳ないが雨が降らないか、空を眺めている私だ。
[ 2013/06/08 16:36 ] 寄稿 | TB(-) | CM(-)


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