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夜間中学その日その日 (290)   守口夜間中学 白井善吾

2013年春、守口夜間中学
「先生、ツバメやってきましたか?」
春休みの宿題としてツバメの初認日を記録するようお願いをしておいたことにもよるが、ある夜間中学生の新学期最初の挨拶は「ツバメやってきましたか?」であった。

私は「夜間中学の近くの電線に止まって忙しそうに鳴いていました。近くに相手がいるのか、南の国から到着しましたと近所に挨拶しているのかもしれない。大きな声で鳴いていました。4月3日の午前11時過ぎのことです」と答えると、毎年やってきて巣をつくっていたツバメも、住んでいる市営住宅の改装工事があって、巣が潰され、今年はまだ飛来していないとのこと、「いつも来ているツバメはどこに巣をつくっているんかな?」心配顔でそう語った。
吹田の自主夜間中学からこの春守口夜間中学に入学することを決めた新入生Aさんは、入学式の日誰よりも早く登校してきた。吹田から自転車で淀川にかかる豊里大橋を渡って40分もかけてやってきた。雨の時、風の強い時は本当に大変だ。午後の9時過ぎ、大橋を渡ることになる。どのように通うか、考えてもらうことにして春休みを迎えた。JR吹田、大阪経由、環状線京橋で京阪電車に乗り換え土居下車で通学することを決めた。学生証と定期券発行証明書を渡した。定期券が購入できるだろうか?
次々と夜間中学生の登校だ。いつもよりきれいになった教室に入っていく。何人かの夜間中学生、モップで廊下を掃除し始めた。ゆっくり、力を込めてモップを動かしている。クスノキが新芽を出し、古い葉が入れ替わりに散っている。風に吹かれて廊下に入ってきている。
この日4月8日は入学式、始業式が行われる。いつもながら、とりわけ忙しい日となる。昼の学校のように、就学通知書が発行され、入学者が分かっていることは、夜間中学ではありえない。「入学したいと校門のところに立っておられました。先生、入学生です」夜間中学生に連れられて職員室に入ってくることも珍しくない。その人たちから話を聞き取りながら、入学該当者であれば、クラス担任の先生に話をつなぐ。合間を縫って、夜間中学生から休み中の出来事の報告もある。「ごめん、ゆっくり聞かせて」と待ってもらうこともある。
この春、高校に合格した卒業生が真新しい制服姿で登校してきた。「今日は高校の入学式でした」「1年2組、3番です。1.2.3です」「英語の時間は日本語がつかえません」「英語全部忘れました」。「社会の宿題、全然できていません」「朝6時半に起きます。7時に家を出ます」次々語りかけてくるのだ。在学中には考えられない。
一揃え7万に手が届く、制服は大変な負担だと考えた夜間中学の先生は、高校の卒業生に声をかけ制服を準備したが、今年から制服を変えたとのこと。事情を説明して、以前の制服を使いたいと高校と掛け合ったが、実現しなかった。「先生ありがとう。心配ありません」と答えたが、元気がなかった。どうにか購入できたようだ。校長先生が退職、教頭先生が転勤になる。そのことを知った3人はすぐに帰らず、離任式に参加するという。在学中には考えられない、積極的な動きだ。
「白井先生お元気ですか?」頭を上げた顔、どことなく見覚えのある顔だ。しかし名前は出てこない。「あーいらっしゃい」と返すのが精一杯だ。「顔は見覚えがあるんですが、ごめんなさいどなたですか?」大変失礼な返し方をした。「Tです。先生が昼の学校に転勤の時覚えています」「1998年ですから、15年前ですね」。こんな返事をしながら、記憶をたどった。少しずつ記憶がよみがえってきた。しかしはっきりと重ならないのだ。
当時、たくさんの入学者が夜間中学に殺到した。中国残留婦人、孤児本人や二世の人たちだ。十分時間をかけて学びたかった。しかし生活が許さなかった。子育てのため、卒業することなく、仕事に就いた。Tさんもその一人だ。「鉄工所の仕事でした」「怪我はされませんでしたか?言葉が分からず、事故にあう人が多いんですが」「だいじょうぶ、怪我はしませんでした」ゆっくりと答えが返ってくるが、的確な日本語だ。「もう一度入学して、ちゃんと勉強したいんです」この様に言い、深々と頭を下げた。
残留婦人であるお母さんの名前を聞いた。「Sです」。記憶の中の何人かから、「あー、Pさんでしょうか?」と夫の姓を口にした。「はいそうです」退職をして、もう一度、夜間中学を訪れられたのだ。
入学式の始まる時間になっていた。「入学式が始まりますよ!」急かす声が聞こえた。

入学生Aさんは、次の日も一番早く登校した。手には買ったばかりの定期券が握られている。無事買えたようだ。
2013年春、守口夜間中学生はこのように動き始めた。

[ 2013/04/19 08:25 ] 寄稿 | TB(-) | CM(-)


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