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映写室「桜並木の満開の下に」船橋淳監督インタビュー:犬塚芳美

 ―震災後の皆が抱える心の暗さ― 

 今年の桜は不思議でした。関東では早々に満開を迎え、遅れて開いた関西では、満開と時を同じくして、台風並みの雨と風。桜はあっけなく散っていきました。この物語の舞台の今年はどうでしょう? そんなことが気になるような、日立市が誇る素晴らしい桜並木が、映像の中に広がります。現実への桜への心残りをこの作品の中に探してみてください。満開の桜の下で何があったのか等々、制作秘話を船橋淳監督に伺いました。

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<その前に「桜並木の満開の下に」とはこんなお話> 
 茨城県日立市の小さな町工場で働く栞(臼田あさ美)は、同僚の研次と結婚したばかりだ。そんな幸せの絶頂に、研次が仕事中の事故で死亡する。事故を起こした工(三浦貴大)が謝罪するが、栞は受け入れられない。しかし工場の建て直しに必死で働く工の姿が、彼女の心を溶かしていく。1年が過ぎ、工が工場をやめることになった。理由を聞くと・・・。

<船橋淳監督インタビュー>
―この作品は、日立市の支援で作られたものですね。
船橋淳監督(以下敬称略):ええ、そうです。日立市は平成20年度から、地元のPRとイメージアップを狙って、映画制作を支援する事業を行っているのですが、その公募に脚本を出して選ばれたというわけです。ところが撮影に入ろうとしていた矢先に、3・11が起こって、映画制作どころではなくなった。茨城県の被害も大きく、福島から避難してくる人たちもいましたから。キャスティングも決まっていたのに、一度中止になりました。映画の製作は実際の撮影の前に、かなりの資金を使っています。それがパアになるわけで、おまけに制作に予定していた2,3ヶ月が空白になって、何もすることが無い。鬱々とした日を送りました。ところが、少し落ち着いた夏頃に、あの映画の制作をやろうと、日立市のほうが言って下さったんです。予算のかなりを使っていたので、資金的にももう無理と、一度は断ったのですが、その話をオフィス北野の市川さんに話したら、お金を出していただけることになりました。あの震災で、この街や日本の状況は大きく変わってしまいました。工場も被災したし、親会社も被災しましたから。で、もう一度脚本を練り直し、キャスティングも1からやり直して、作ったというわけです。

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©2012 『桜並木の満開の下に』製作委員会

―震災後に大きく変わったところは?
船橋:やはり、さらに深まった暗さや不安感ですね。今、アベノミクスで景気が上向いているといわれますが、この物語は、3.11の震災の後の、日本中が暗く沈んでいた頃の物語です。日立の企業城下町の日立市には、関連の中小企業がたくさんあります。これらが震災で大打撃を受けました。そういう実際の被害だけでなく、原発の影響を恐れる風評被害も大きく、技術者や医者が、東京からこちらに派遣されるというと、赴任を拒否するという現象もあったようです。これでは物事が回っていかない。もともとの不況が震災後にさらに深まり、これからどうなるのだろうという不安感が街に漂っていました。仕事を求め、安全を求めて、若者は街を離れていきます。そう中での若者たちの物語を作りました。日立市はある意味で日本のどこにでもある地方都市の苦悩を抱えた町です。状況が変わったのかどうか、実体経済にはまだ反映がみられない中、身につまされる地方の方も多いのではないでしょうか。

―そういう震災の爪痕は、映画の中でどのように描かれていますか?
船橋:津波で抉られた海岸とか、あくまで物語の背景として描いています。というのも、今まさに長期化しようとている震災後の現場を、フィクションで捉えるのは、事の本質を遠ざけるような気がしたからです。フィクションはある程度距離をとらないとできませんが、爪痕が生々しい現実でありすぎて。工場にしても追い詰められていました。
―日立市にしても、この映画をきっかけに、そう言う所から脱却したかったわけですね。この作品のトーンは暗いけれど、暗さの中の希望というのか、未来に向かって風穴が開いていますから。小さな明かりがとても大切に思えました。
船橋:そう言ってくださると嬉しいです。それに日立市の方の思いは、まさにそうだと思います。撮影中は市民の皆さんがエキストラで出てくださったり、炊き出しをしてくださったりと、市を上げての全面的なバックアップがありました。又、映画に出てくる工場も、実際に稼動している工場で、こういう作品にもかかわらず、快く撮影させていただけ、作品のリアリティになっています。桜並木も、通常のライトアップ時間を延長してくださったり、色々便宜を図っていただけました。

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©2012 『桜並木の満開の下に』製作委員会

―主演の二人が素敵ですね。キャスティングはどうやって?
船橋:この映画制作支援プロジェクトの条件は、日立市で撮るということと、市内の桜の名所を映して欲しいということ。町おこしにこの街の桜を使って欲しいということです。だから撮影時期は桜の咲く時と限られていますし、物理的にはその期間にあいている人ということになりますが、この二人に巡り会えたのは幸運でした。二人とも目がいいんです。鬱々とした中で、色々考えているなあという、内面を感じさせます。ヒロイン役の臼田あさ美さんは役に体当たりで、複雑な感情に揺れ動く難しい役ですが、すべての自分の感情を作品にぶつけてくださいました。役作りが難しいので二人で色々ディスカッションしましたね。憎しみが愛情に変わっていく過程が肝心なので、僕のほうで意図的に、主演二人を会さないようにしました。撮影にあわせて距離を縮めていったわけです。三浦貴大さんは、お父さんに似たのかお母さんに似たのか、本当に好青年です。折り目正しくてスタッフからも好かれていました。

―二人の古風な雰囲気もあるのか、この作品を見ながら「キューポラのある町」を思い出しました。あの作品では、機械化されて熟練工が要らなくなるのですが、コンピューター技術が入った現代でも熟練工が必要なのですか?
船橋:工場は機械化されていますが、映画に出てくる過程は些細な調節や機械の使い方に、センスや熟練が要求されるようです。ここまで機械化されても、まだまだ本当の意味での熟練工は必要なのです。又、この作品は、古い時代をイメージしながら作りました。失われていく大事な何か、主人公二人のもっているそういうものが、もう一つのテーマになっています。

―今後の作品の構想がありましたら。
船橋:僕は多くのドキュメンタリーを作ってきました。ドキュメンタリーを撮っていると、心の変化に興味が行きます。どうしてもそこを追ってしまう。そして、時々テレビのサスペンスドラマの演出をさせてもらったりもします。これも又、理不尽な出来事やありえない関係がテーマになることが多い。この作品のように、自分の愛する人を殺した相手を好きになるとかです。そういう人間の心の複雑な変化を、描けたらと思います。


《作品の感想とインタビュー後記:犬塚》
<最初の方に、「桜の花は迷いの花、蕾の中でいつ咲こうかと咲き時を探っている」>といった意味のせりふが出てきます。監督のオリジナルだそうですが、このせりふで、一気に、この作品の独特の視点に惹かれました。監督の仰る様に、主演二人の物言う瞳も、この作品の文学性を深くしているのでしょう。桜並木にしても、明るいだけではない、心を惑わすような儚い美しさが映っています。迷うのは桜だけではない、見る者の心なのでしょう。

 <ところで、この二人の終盤の関係は>観客に委ねられています。いくつかの暗示的な映像はありますが、決定的なものはありません。「本当はどうだったと思われますか」という監督からの逆取材に、記者からは「そういう関係があった」という意見が続き、私だけが「添い寝をしただけで、そういう意味の関係は無かった」と。それぞれのそう思う理由を重ねて監督から聞かれ、それぞれの理由を言うと、「どちらにも取れるよう観客に委ねてはいるけれど、僕なりの答えは随所にちりばめています」との事でした。う~ん、もう一度そのそれぞれを確認してみたい。ちなみに私の答えは、「まずは体ではなく心、お互いのぬくもりを求めたように思う」でした。
 <その時はこんな答えでしたが>、帰りの電車の中でもっと明確な答えが浮かびました。それは「そぐにはそうならない二人の人格を、それまでに映像の中で監督が作っていたから」です。さあ、正解はどれでしょう? 二人の心模様に焦点を合わせ、監督のちりばめたものに目配せしながら、映画館で「桜並木の満開の下」を歩いてみて下さい。

船橋淳監督は、この作品で、4作品連続ベルリン映画祭招待の快挙を成し遂げました。

●公式サイト  http://www.office-kitano.co.jp/sakura/

この作品は、4月13日からテアトル梅田、京都シネマにて公開
[ 2013/04/09 22:11 ] 犬塚芳美 | TB(-) | CM(-)


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