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夜間中学その日その日 (286)   守口夜間中学 白井善吾

春眠不覚暁
2012年度、守口夜間中学を交流のため訪れた人は750人、3月8日、今年度最後は夜間中学の昼間、守口市立第3中学校2年生の子どもたちだ。夜間中学生が登校するのと入れ替わりに校門を出ていく子どもたちだ。

お互いに「こんばんは」「こんにちは」挨拶を交わすだけであった。この日夜間中学生の意見発表を聞いた後、30人の子どもたちが希望して夜間中学の授業に参加した。
この日、出席できたクラスの夜間中学生は6人、この時期は欠席が多い。中国残留婦人の母親を先日亡くした周さんは欠席だ。全員中国から帰ってきた人たちだ。4人は日本に来て1年にならない、10代の若者だ。日本での生活に慣れきれず、うつむき加減の毎日だ。この教室は小さな中国に変わるときがある。そんな中で、60代になったばかりの周さん口数は少ないが、10代の子どもたちに適切なアドバイスをしている。長く休んでいた高さんが再登校を始めた。職場から直接登校する。言葉で苦労をしている高さんは休み時間も、ひとり、その日学習した内容を復習している。そして「先生、聞いてください」と文章を読んでいる。そんなクラスに、昼の中学生3人を迎えての学習だ。
この日の授業はおよそ次のような展開である。
日教組教研の共同研究者、石井小夜子弁護士から紹介を受け、入手した『故郷(gu xiang)』と題のついた絵葉書を配った。「厳冬のハルビン」「南から戻ってきた燕」「松花江で泳ぐ子どもたち」「農作業で使う力強い耕作馬」「孫と祖父」など、モノクロの6枚の絵ハガキが入っている。
配られるや、それに目をやる夜間中学生。傍でその写真を眺める昼の中学生。「冬の写真は?」と質問をすると、「これです」。「気温は何度ですか?」「マイナス25℃」「3月の今はマイナス12℃」。「ツバメが写っている写真は?」「これです」とその写真を手にする。「守口にはいつツバメがやってきますか?」と昼の中学生に、「6月頃かな?」「それは遅刻のツバメ。3月の終わりごろです」。
この写真を写した人は「高部心成さん。高部さんのお父さんは、守口夜間中学卒業生です。高部さんのおばあさんは中国残留婦人です」。守口夜間中学が出版した『学たびくやしく 学たびうれしく』のカバーも高部さんが撮った写真です。ここまで説明して学習資料を配った。
夏の農村の風景、中心に立つ上半身裸の子ども。背景はオンドルの煙突があるレンガ造りの民家。上空は白い積雲の1枚の写真(『故郷gu xiang』photo by Shinsei Tskabe )と次の文章を印刷したプリントだ。

『中国残留婦人3世の高部心成さんは写真を学び、中国人でも日本人でもない私は何か?と悩みました。20歳の時、生まれた故郷の黒龍江省へ行きました。子どもの時と変わらない風景や人々、子どもたちの生活を見たとき、来日してずっと閉まっていた子どもの時の記憶が扉を開けたのです。そこには、人々が自然と融合しながら暮らしている「何もない豊かさ」が溢れていました。ただそこにいるだけで、陽の光にも幸せを感じる豊かさに触れて高部さんは自分は「日本人と中国人のダブル」だと考えるようになった』

この文章を漢字に読み仮名をつけ、昼の中学生は日本語の先生になって、何度も何度も読みの練習をしてもらった。昼の中学生も、夜間中学生にあわせ、ゆっくりはっきり、発音をして、夜間中学生に指導をしている。たどたどしい読みも何とか聞き取れるようになってきた。
「意味は分かりますか?」「大体わかります」。何人かは大きくうなずいている。「先生、ダブルってなんですか?」傍らの日中辞書を手にしてページを繰り、別の夜間中学生は携帯電話で意味を調べている。「双」。今度は頷いている。「私は独身です」と冗談も出てきた。
次の学習に進めた。プリントの裏に、孟浩然の漢詩「春暁」を左に中国語で、右に読み下し文を印刷しておいた。中学2年生の教科書に掲載されている漢詩だ。
「春眠不覚暁 /処処聞啼鳥/夜来風雨声/ 花落知多少」

「ちゅん・みん・・」ゆっくりはっきりと夜間中学生が中国語で読み、昼の中学生が聞き取る。漢字の横に、聞き取った発音をカタカナで書く。二人で何度も練習している。そして昼の中学生、一人一人、中国語で読んだ、読み終わると、拍手が起こった。さすがだ、何とか聞き取れる。
次に、今の逆。先生と生徒交代して、書き下し文を夜間中学生に読んでもらった。

春眠(しゅんみん)暁(あかつき)を覚えず/処処(しょしょ)啼鳥(ていちょう)を聞く/夜来(やらい)風雨(ふうう)の声/花落つること知る多少

「中国語と日本語、発音が似ている漢字はどれだろう?」。あがったのは「春・眠・不・来・風・知・少」であった。あっという間の60分の授業となった。
違いを豊かさに、うつむき加減の目が少し角度を変えたように思った。昼の子どもはどんな感想を持ったのだろう?
この授業に参加した二人の夜間中学生は、3月14日、卒業式を迎える。合格した高校で中国で育ち、夜間中学で学んだことを誇りに、もう一人の仲間とともにはばたいていってほしい。
[ 2013/03/21 00:04 ] 寄稿 | TB(-) | CM(-)


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