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エッセー 「ムシ」:朴明子

「ムシ」は「務歯」だったと、最近知った。ファスナーのかみ合わせの、金属製(今はプラスチック製のもあるがの突起のある小さな物体である。「ムシ」という響きがなんか朝鮮語のような気がしていたのだが、専門用語? だった。朝鮮語の様な気がしていたのは、こんな経験があったからだ。

まだ小学校低学年だった。家内制手工業として、在日コリアンたちの生業となった時期があったらしいファスナーの作業場のような所で働いた(?)ことがある。ごく普通の家に6,7人の女性が長い台を「コ」の字に並べ、座布団に座わって作業をした。

台の上には半紙大のフェルトが敷いてある。真ん中あたりはムシを植える(といった)鉄製で、30センチの物差しのような物を二枚挟んだ器具の端を、台に胸で固定するのだが、そのままでは痛いので、食パンのサンドイッチ用ぐらいの大きさの板を、胸に当て台に押し付けるようにして固定する。フェルトには、両手でムシがつまめるようにバラッと置いてある。左右それぞれの指で、一瞬の内に突起をまさぐって同じ方向に鉄製の器具に置いていく。器具には布のテープが挟んであり、櫛の歯のように隙間があってそこにムシ並べる。この作業を「ムシを植える」と言ったのだ。この作業が早いほど沢山稼げる。

それが出来上がると、「コ」の真ん中に座っているポンスという機械を操作する人に渡す。ムシをテープにガチャンッと圧力で固定するのだ。ムシはミリ単位の大きさでいろいろあり、小さいのはつまむのが難しかった。そうそう、ムシを植えたらきれいに揃えるために、ビール瓶等の蓋を半分に外側に折り曲げ、すうーっと撫でるようにすると、ムシの列は真っ直ぐに整った。

学校から帰ってくると、4つ上の姉と一緒に作業場に行く。私は遊びたかったからいつも嫌々行っていた。ある時、作業中で鼻をほじくっていると、ちり紙に血が付いた。

「あっ、鼻血!」

というほどのものではなかったが、周りの大人が、

「しんどいのと違うの。帰らせたり」

というので、姉が「帰り」と言うのを待った。姉はよく働いたから、許しが出ると後ろめたさに良心がチクリと痛んだが、その場所から解放される嬉しさの方が、勝った。

子どもの頃、こういった事や、家でのいろんな内職が私を仕事嫌いにしていった。お金のために拘束されるなら、貧乏でもいいから自分の時間が欲しいという思いはその後ずっと続いた。

だが、自覚があろうとなかろうと老年の域に達してしまった現在、自分を含めて身辺を見回すと、お金は幸せさえももたらしてくれると思うことしきりである。

改めて見ると着るものにしろ、カバン類にしろ、靴にしろ、どんな装いにもファスナーが付いている! これのためにお金を稼ぐ道を選ばなかったのだと、だんだん後悔の念が強くなっていく。今年もやっぱりおバカな私である。              
[ 2012/12/31 19:15 ] 寄稿 | TB(-) | CM(-)


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