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夜間中学その日その日 (262)   守口夜間中学 白井善吾

4回にわたって報告をするのは、『勉強がしたい学校がほしい』 夜間中学増設運動全国交流集会編 (宇多出版企画1994.3)に収録した論考「いまこそ増設を」に加筆し、夜間中学増設運動全国交流集会に参加する者の考え方をまとめたものである。夜間中学を巡って複雑化する現状況に、一つの考えを提起しておきたい。

いまこそ増設を (第2回)


(5)「生涯学習」と夜間中学
夜間中学をめぐる最近の状況として看過できない二つの動きがある。一つは1990年に「生涯学習の振興のための施策の推進体制の整備に関する法律」(以下「生涯学習振興法」)なる法律が出されたこと、二つ目は夜間中学に学ぶ人たちに新しい流れが見えてきていることである。
「生涯学習振興法」を私たちはあからさまな国の攻撃、夜間中学(=公教育)つぶしとしてはっきりと見すえなければならない。
夜間中学に対する国の考え方を示すものとして、1985年の中曽根首相と2008年の麻生太郎首相(いずれも当時)答弁書がある。
1971年中教審答申の頃から「生涯教育」路線が打ち出され「法の下から鎧」をチラチラ見せていたが、中曽根答弁書で「生涯教育の観点から配慮する必要があるが、当面中学校夜間学級がこれらの者に対する教育の場として有する意義を無視することはできない」とはっきりと夜間中学は狙い撃ちにされたといわなければならない。23年後の麻生答弁書では、その後の夜間中学をめぐる情勢の変化を受け、「生涯学習」の用語は現れないが、「学習の目的や必要とする教育の内容等に即しつつ」に見られるように基本的姿勢は変わらない。その具体化が「生涯学習振興法」であり、夜間中学の担当課をこれまでの初等中等教育局中学校課から生涯学習局に移す意向であることを明らかにした当時の文部省の姿勢にある。
「生涯学習振興法」は民間企業の参入をも認める法である。つまり公教育を合理化し市場経済を導入する意図の明らかな法律である。この国の姿勢は義務教育未修了者という弱者への国の責任を放棄し「生涯教育」「社会教育」の美名の中に紛れこませようというものだ。夜間中学関係者はこれを夜間中学の危機ととらえるのか否か。
私たちが主張してきた「教育権保障は学校教育で保障させるんだ、権利の値切りは許さない」という姿勢に立ちきることが大切である。識字の機会や日本語修得の場を行政の責任で設けることの意義は大いにある。しかし夜間中学という学校教育は社会教育とは一線を画すものだ。ここを崩してしまえば夜間中学の存在理由はなくなる。
(6)夜間中学の門戸は開かれている
 現在、夜間中学に学んでいる夜間中学生は大きく二つに分けられる。
 第一は過去に受けることのできなかった義務教育の権利を今、行使することを望む人たち。ここには戦争、家庭の事情、病気、貧困などの理由による未修了者と、「登校拒否」「不登校」によって中学校を除籍になった若い未修了者が含まれる。 
 近年、日本の侵略戦争の犠牲者から謝罪と補償を求める声が高まってきているが、夜間中学に学ぶ在日朝鮮人や中国残留邦人と言われる人たちは、まさに戦後補償として日本が責任を負って当然の人たちだといえる。また最近になって次のような人たちも顕著に見られる。かつて学齢時に身体的ハンディを負っていることを理由に義務教育を「就学猶予」「免除」という形で門前払いされた人たちが、30代、40代になって入学を希望してくるケース。あるいは戦後の新学制発足時に学ぶことができずその後の人生を働きづめに働いてきた人たちが定年を迎え、60歳を過ぎて入学するケースである。
 第二は、新たな渡日者である。この人たちは日本に定住し生活していくために言葉と文字の習得を望んでいる。その在籍の実態と変遷はつぎの表で示す。
在籍夜間中学生内訳(略)

(7) 新しい渡日者の「コトバ」は誰が保障するのか
第二のグループの人たちについては、第一のグループの人たちとは別の視点と考え方で受け入れる必要があるであろう。日本に来て日の浅い外国の人にとっては何年もの時間をかけて学ぶわけにはいかない。日本語の日常会話ができるかできないかのうちに「就労」を勧められ、生活保護など福祉施策は打ち切られるからである。しかもその仕事たるや、低い賃金、低い労働条件の「使い捨て」に近いものしかない。資格を取るための勉強の余裕などないほどの労働時間は長くてきつい。家賃や物価が高いので、生活していくのに精一杯。病気で倒れでもしたらたちまち明日からの生活がやっていけなくなる。そんな暮らしの中で子どもの教育の問題も大きな悩みとして抱えている。約70年前、日本へ強制連行されたり、渡日を余儀なくされた朝鮮人と同じような苦難が待ち受けているといっても過言ではない。この人たちの目で見ると、日本の社会は1世紀近い昔から福祉施策の上でも人権意識の上でもなんら変わっていないことが残念ながら見えてくる。彼ら彼女らは、単に言葉を覚えたいというばかりでなく、人間としての存在を認めてもらえる場、仕事探しから子どもの教育や病気にいたるまであらゆる問題や悩みを相談できる場として夜間中学の門をたたくのである。ここしかないからだ。
多岐にわたるこのような問題も、ただ一点「教育」という視点で見るならば、夜間中学はこのような人たちにも開かれているといえるわけだ。夜間中学の創始の心に立脚して当然このような人たちの入学を認めている教育委員会や現場もあることを特筆しておきたい。
(8)新たな夜間中学像
一方、夜間中学の生徒としては第一のグループの人たちだけを対象とするべきであり、第二のグループに属する外国の人たちには別の学びの場を用意するべきであるという主張もある。これは外国からの人たちに読み書きの場が必要だが、実際にはどこにもそのような場所がない以上、とりあえず夜間中学で受け入れ、行政に別の場の設置を働きかけ、設置された段階で移ってもらおうという考え方である。現在夜間中学の現場は公立、自主を問わず多様な国籍、多様な経緯の入学者の対応に追われているばかりで、先を十分見通したものでないというのが正直なところである。従来のままの夜間中学の規模と教育条件ではこの新たな事態にとても対処できない現状がある。しかし経済大国として日本が外国に経済侵略していった結果、出稼ぎを余儀なくされた渡日だととらえるべきで、そのような優れて政治的な原因で日本に渡って来ざるをえない人たちに対する人権保障の面から考えても、放置できない問題である。
私たちがこのような教育「難民」とも言える人たちに夜間中学以外の教育の場の設置を要求するとすれば、次のような条件が備わっていなければならない。すなわち、開設日数、時間、指導者などが少なくとも今の夜間中学以上のものであること、そしてこの点が重要なのであるが、日本という異国で生活していくための生活相談をはじめ、健康、就労などカウンセリング機能を持っていること。つまり。かつて日本がアジア人たちを支配しようとしてまず蔑視することを教育していったような外国人排斥の思想を脱却して真の国際的な人権感覚でこれらの人たちを教育の側面から援助する思想性が必要であるということだ。この点について多くの教育研究者から、これまでの学校教育と社会教育という分けられた教育でなく、二つの側面を合わせ持った機関での教育権保障が必要であるという声が出され始めた。そのような論を待つまでもなく、すでに夜間中学は「学校教育」でありながら、同時に「社会教育」の機能も果たしてきている。現場の教師は時代の最先端で苦悩しているのである。
このような時流に文部科学省はどんな対応策を持っているのか。「夜間学級では中学校普通教育が中学校の教育課程で行なわれていると思います。日本語のみの習得、これはおかしい。新渡日の外国の人にどのような形で日本語の教育をするかは研究しているが今のところ具体的にありません」(1992年中学校課 関課長補佐)と国際識字年推進中央実行委員会との話し合いの席で答えたが、積極的に夜間中学の担当所管課で考えていく姿勢は見えなかった。約20年後の現在もこの状況は変わっているようには思えない。
言葉に戸惑い、文化の違いに立ちすくみ、途方にくれながら生活している外国の人たちや中国からの帰国者に、まさに「誰が、どこで、どのような形で」生活の基盤となる言葉の習得を保障するのかが問われており、その人たちと私たち夜間中学の現場はすでに出会っており、さまざまな問題の解決に向けて手探りでとりくみを続けているのである。迷うことはないのではないか。夜間中学が産声をあげたときのように、法は実態に合わせていかようにも解釈させていけるし、いかねばならないだろう。
(9)教育権は我が手中に
1977年当時の海部文部大臣は、上田卓三議員(社会)の夜間中学についての質問に対し、義務教育未修了者に対して強制的に夜間中学へ来るようにすることはできない。むしろ社会教育でやると答えている。
権利としての義務教育を公然と値切って国家みずから貶めた発言といえる。昼の中学校に併設した形で夜に学べる義務教育の場を開設しているのは全国8都府県、25市区である。これでは行きたくても行けないのだ。いつ「強制的に」来るように勧めてことがあっただろうか。全国津々浦々、全中学校に夜間学級を併設し、「義務教育は受ける権利があります。いくつでもかまいません。入学して教育を取り戻してください」と草の根分けて未修了者を探し出して入学してもらってから、先の言葉を言っていってほしいものである。経済効率からいって損をするようなことには、この国の政治は目を向けようとしないということなのか。(つづく)
[ 2012/10/06 06:01 ] 寄稿 | TB(-) | CM(-)


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