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夜間中学その日その日 (253)   守口夜間中学 白井善吾

鍬禾日當午/汗滴禾下土/誰知盤中餐/粒粒皆辛苦

「先生、今日の大雨、家、大丈夫ですか、稲や作物は影響ありませんでしたか?」、聞きなれた透き通った声が受話器から流れてきた。夜間中学生が心配して電話をかけてきた。私は「これ以上降ったら困ります。この雨で、水不足が一気に解決しました」そう答えた。

「よかったですね。体に気を付けてください」忙しい仕事の手を休め、昼の休憩時に電話をかけてきたのだ。この日、早朝から、雷鳴とともに、大きな雨が降り、大雨洪水警報が出ていた。

耕作水田に入れる水は、淀川の水ではなく、山池の水を使っている。7月19日に各水田に水を配った後、次に池の樋門を開けるのは、半月後、8月2日の予定であった。農作業では「中干し」と言い。昔から天神祭の頃で、つらい草取りの、農仕事が一段落し、天神祭に出かけていったと、父親は話していた。
その7月25日頃になると、田は水がなくなり、からからに干あがる。それまで表面を張り巡らせていた水稲の根は一斉に水分を求めて地中深く伸ばしていく。稲の葉は夏の日照りに耐え、葉の色を濃い緑色に変えていく。葉先が黄色く色が付き始めたころ、樋門を開け、各水田に水を入れる。根と茎を強く育て、台風にもびくともしない稲に育てる、昔からのやり方だ。
大変なことが起こった。7月の末頃、樋門が勝手に開けられ、94㎝あった水位が34㎝と池の水の70%近くを無駄に流失させてしまった。それからが大変であった。樋門は上下2か所あって、上樋、底樋と呼んでいる。普段は上樋だけで操作している。底樋を触ると、たくさんの魚が死んでしまうことになる。稲の生育を考えると、当然のことながら、底樋に手を付けることになる。しかし、したくなかった。すり鉢状ですでに干あがった池底では大きなフナの死体が目につくようになってきた。
これまでご先祖様が何度も経験してきたであろう、山池の大事件である。一滴の水も無駄にできない、樋門の開閉をしなくてはならない。減ったとはいえ、3ha、17か所の水田に水を配る。祈るような気持ちで、この間過ごしてきた。夜間に樋を開け、遠くの水田に水を送ることもやった。ありがたかったのは、天気予報がよく当たった。予報を参考にして樋門の開閉をおこなった。
勤務中に、雷鳴がすると両手を合わしていた。そんな私の姿を電話をかけてきた、この夜間中学生に見られ、「先生、何をしていますか?」と質問されていたのだ。
ヘッドライトを点け、見回りが続いた。8月14日の大雨で一安心、何とか満水。98㎝の水位を回復した。夜間中学生から教わり、毎日暗唱させられ覚えた、唐の詩人・李紳の五言絶句の古詩が口からこぼれた。
鍬禾日當午/汗滴禾下土/誰知盤中餐/粒粒皆辛苦
[禾(いね)を鍬(す)いて 日 午(ご)に当たる]/[汗は滴る禾下(かか)の土]/[誰か知らん盤中の餐(さん)]/[粒々(りゅうりゅう) 皆な辛苦なるを]
田を耕すではないが、水を求めて、汗を流したというところか。生き物にとって水はいかに貴重なものか、身に染みた。
[ 2012/08/17 00:10 ] 寄稿 | TB(-) | CM(-)


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